CASES

適用事例

二重周期領域における2次元乱流のトポロジカル渦抽出

2026.05.01

背景と課題:複雑な乱流から「渦」を客観的に見つけ出す

2次元乱流の研究において、複雑な流れのパターンの中から「渦(コヒーレントな回転構造)」を正確に特定し、その統計的性質を記述することは長年の課題でした。従来の手法では、渦度(流れの回転度合い)の極値や速度勾配テンソルの固有値などを用いて渦を定義していましたが、どこからを渦とみなすかという閾値やパラメータの設定に経験的な仮定が必要になるという弱点がありました。

アプローチ:トーラス(二重周期領域)向けTFDAアルゴリズムの開発

本プロジェクトでは、トポロジカル流データ解析(TFDA)を用いて、パラメータに依存せず数学的に客観的な渦を抽出する理論を構築しました。(参考文献1)

2次元非圧縮性流体のシミュレーションでは、上下左右が繋がった「二重周期領域(数学的には平坦なトーラス)」をモデルとして使用します。しかし、トーラス上の流れは数学的にループ構造を持つため、そのままでは流れを完全な「木構造」へ変換する従来のTFDA理論が適用できませんでした。 そこで、流れの中から「本質的な周期軌道(essential periodic orbit)」を見つけ出し、そこを境界として切り開くことで円環(アニュラス)状の領域に変換するアルゴリズムを新たに開発しました。これにより、トーラス上の複雑な乱流パターンも、シンプルな「木(COT)」とその「文字列(COT表現)」に変換することが可能になりました。

以下の図では、冗談左側が流線関数の等高線、右側が渦度の等高線です。このことから渦度と流れ関数の孤立回転流領域にはよく相関があることがわかります。この流れ関数(下段左側にスケマティックなトポロジカル構造を記載)にTFD解析を行うと、下段右のようなグラフが得られます。このグラフの末端にある枝に注目します。


成果:乱流状態の違いを「グラフの末端の渦」から統計的に解明

この新手法を、2次元乱流の代表的な状態である「エネルギー逆カスケード(IC)」と「エンストロフィーカスケード(EC)」のシミュレーションデータに適用し、以下の成果を得ました。

  • 渦の面積の分布の違いを発見: TFD解析で得られるグラフ構造の末端に位置する「末端渦(terminal vortices)」を抽出して、それをトポロジカルな渦構造と定義しました。下の二つの図を比べると、上の図は流れの渦度であり,下の図は末端渦の渦構造です。その相関は明らかに見えます。この末端渦を用いて、その面積の確率密度関数を調べました。その結果、EC状態では「対数正規分布」、IC状態では「ガンマ分布」に最もよく当てはまることが判明し、2つの乱流状態の違いを統計的に明確に分類できました。

        図:渦度の様子(渦度の正の部分は赤,負の部分は青)

   図:TFDAで抽出した末端渦(赤は反時計回りの回転流,青は時計回りの回転流成分)


  • エネルギー変動の定性的な違いを抽出: 終端渦の面積とエネルギー(またはエンストロフィー)の同時確率分布を解析したところ、EC状態の渦はIC状態の渦に比べて変動が非常に大きいという特徴を捉えることに成功しました。
  • 渦の「超拡散」現象の確認: 時間変化に伴う渦の中心点(淀み点)の軌跡を追跡し、平均二乗変位(MSD)を計算しました。その結果、どちらの乱流状態においても、通常のブラウン運動による拡散を超える「超拡散(super-diffusion)」を示すことが分かりました。

図:末端渦の面積中心の運動を時間方向に追跡したもの。そのランダムな挙動は超拡散的であることがわかりました。


今後の展望と社会への応用

本研究でBIPROGY株式会社と共同開発されたPythonライブラリ「T2-psiclone」により、大規模な乱流データに対しても高速かつ自動的にTFDAを実行できるようになりました(参考文献2)。今後は、抽出された終端渦同士の相互作用の解明や、乱流現象における超拡散の物理的メカニズムの特定など、気象学や流体力学の基礎研究に大きく貢献することが期待されています。

参考文献:

  1. M. Kimura, T. Matsumoto, T. Sakajo, T. Yokoyama, and H. Takeuchi, "Topological vortex identification for two-dimensional turbulent flows in doubly periodic domains," Physica D: Nonlinear Phenomena 488, 135099 (2026). [arXiv:2410.20010v2]
  2. 酒井啓法,長井稔,尾島良司,中邨博之,坂上貴之,横山知郎,宇田智紀,二重周期境界条件を持つハミルトン流の流線トポロジカルデータ解析の数値計算アルゴリズム日本応用数理学会論文誌, vol.35 No.3 (2025) pp. 57--93


JST-MIRAI Project Four-Dimensional Topological Data Analysis for Future Medical Care