大気ブロッキング現象のTFDAによる発生の判定と形態分類
大気ブロッキング現象とは
偏西風の蛇行によっ て低気圧や高気圧が長期にわたって一定の場所に 停滞する現象です.ブロッキング現象が発生すると天気の変化が遅くなり,長雨・豪雨・干魃・熱波・寒波といった異常気象の発生につながりやすいとされています.
ブロッキング現象の発生の予測は容易でないとされ,現在,実際の大気データからブロッキング状態かどうかを判定するのに,気象学の専門家により経験的な専門知識を使って判定しています.加えて,大気ブロッキン グ現象には二つの形態学的な区別があるとされています.一つは,高気圧と低気圧が南北に双子に並んだ状態で停滞する「双極子型」(下の図(a)),もう一つは孤立した高気圧が長期停滞する 「Ω(オメガ) 型」とよばれる配置(下の図(b))です.ブロッキングの発生の判定だけでなくこの形態学的な分類を客観的に行うことは難しいとされてます.
この問題に対して,私達はブロッキング現象の発生判定や その形態学的分類を行うTFDAの技法を開発しました.
本成果は以下の日本気象学会誌(JMSJ)に掲載されています.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jmsj/99/5/99_2021-057/_article
解析に利用するデータ
大気の流れは一般に三次元の流れですが,気象学においては気圧の変化(傾度)とコリオリ力(地球の自転によるみかけの力)が釣り合うという「地衡風近似」の仮定の下で,一定の気圧になる大気の高度の等高度線は上空で実現されている流線とよく一致することが知られています. 私達は気象庁が公開している500hPa面の等高度再解析データ(6時間ごとの北半球の高度を記したもの)を用いて,psicloneによりTFDAを行いました.
以下は は 1960 年 2 月のある日の 500hPa の高度面 データに対する TFDA の出力結果です.
ヘッダ部にはこの流れ場の COT 表現が表示されています.また,等高線図中には,点はTFDAの取り出すグラフ構造(レーブグラフ)のノー ド(これらはサドルの位置や楕円型の流れの中心にある極 大・極小点に対応します)をプロットし,それらが高さの変化 に応じて青のエッジで結ばれることでグラフ(ネットワーク)として表現されています.このTFDAの出力のCOT表現の右端にあるa+(σ+)の文字列に対応する高気圧領域がブロッキング(Ω型)の候補になります.
解析手法の概要
ブロッキング大気の形態学的な特徴からpsiclone により与えられた大気の時系列を用いて,以下の処理を行います.
- 各時刻のデータに対してpsicloneを用いてCOT表現とレーブグラフを計算
- a+とa-によって表現されるパターンの影響領域を計算.影響領域のある位置(座標)に「+1」を値に付け加える
- 2.の操作を,各時刻の前後三日で行うことで影響領域の通過をすべてカウントしてヒストグラムを作成.その一定の値より高い頻度を持つ領域だけを抽出.(これががブロッキング領域の候補となります)
- 3.の操作COT 表現中の a± の COT 記号を持つ流線構造 に対応する影響領域を各時刻で時間方向にトラッキングして,二つの影響領域に重なりがあれば時間的にこの領域は繋がっていると判断することでヒストグラムを時間方向につなぐ.
- 抽出した影響領域のヒストグラムがどれだけ一様分布に近いかという指標(これが唯一のハイパーパラメータです)を導入して,一様分布に近い領域が長期間(4 日以上)にわたり時間方向につながっていることを条件として大気ブロッキ ングを判定.
- COT 記号から a+ が孤立してい るブロッキング領域を Ω 型,連続する a+ と a− の構造が上下に位置するブロッキングを双極子型 と判定する.
解析結果
これによって, 1960 年の1年間に起こる大気ブロッキング現象を同定しました.この一年間のブロッキングの発生数に関して,従来の気象学的な方法による判定結果と遜色ない性能があることがわかりました(下の判定結果参照).TFDA は 気象学的な情報をほとんど利用しませんので,より客観的な判定手法と言えます.
1960年のブロッキング判定結果(32例のうち)
TFDA 〇 従来法 〇(14例)
TFDA 〇 従来法 ×(11例)
TFDA × 従来法 〇(7例)
これに加えて以下に示すように TFDA では流線構造が記号化されている ことを活かして,これは従来方法で実現できない文字表現を用いた分類にもなっています.これはTFDAがもたらす新しい判定機能です.
Ω型の例
双極子型の例